まずはお仕事についてお聞きします。
経営者としてと職人として、二つのお仕事をされていますが、意識の違いはありますか?
経営を考えるとどうしても数字にこだわりがちになってしまうが、職人としては完成を求めてしまう傾向があります。
それぞれは仲が悪く我が強い人格ですが、力を合わせた時に最高のパフォーマンスを発揮してくれるので、場面場面で使い分けるように意識していますね。
現場にいる時は完全に職人の頭で、お客様に数字抜きでいいものを提供できるように意識しています。
社員と接する時には、基本的には全て任せているのですが、日常の他愛のない会話の中で悩み事や感じていることを引き出せるように心がけています。その時は経営者の意識かもしれません。
お仕事をする上で大切にしている想いとはどのようなものですか?
やはり仲間あってのお仕事なので、「早く行きたいなら一人で、遠くへ行きたいならみんなで」という言葉があるように、技術はもちろん、時間、精神、言葉遣いなどをみんなで共有し、向上していきたいと思って働いています。
次は社員さんとの関わりについてお聞きします。OJT(On the Job Training)を実践されているとのことですが、どのような背景があってOJTに力を入れているのですか?
自分が修行時代勤めていた時に任された経験があって、任される喜びや責任感を実感できたんですよね。だから自分が独立したあと2017年入社後に小さい店を(2店目として)出した時に任せてみたら、みんな活き活きと仕事してものすごいスピードでどんどん技術もメンタルも成長したんです。
そのことで任せるって大事なことなんだなと思いました。
それと同時にお客様に育てていただくという意識も出て来たんです。僕が10指導するよりお客様に1言われる方が効果がある。社員はぐんぐん成長していって、その結果今の4店舗体制になりました。
そういう背景があって実践がOJTであり、大切なことだと思うようになりました。
「職人を育てる」という昔ながらのやり方とは違いますか?
そうですね。「見て覚えろ」とかそういったことが昔はありましたけど、やっぱりやらないと覚えないですよね。技術職なので。だから、失敗してもいいのでどんどんやらせよう、という心構えでやっています。
やはり任せることで失敗はありますか?
それはもうたくさんありますね。軍艦のいくらが全部こぼれていたり、出前のお寿司が倒れていたり。そういうのも経験しながら学習して、みんな技術が上がっていくのだなと思いますね。
そういった失敗のことも考えると任せることにはリスクもあると思いますが、
それも含めて社員の方を信用して行なっているということですか?
そうですね。失敗は当然ありますが、そのために修行の場という意味も含めて価格をおさえた店舗を作るなど、お客様のご理解を得るような努力はしています。
自身の修行時代にも失敗はありましたか?
いっぱいありますね(笑)。後ろから器を下げる時にお着物を着たお客様に汁をこぼしてしまい、あとでケーキを持って謝りに行ったりしました。
失敗すると現場から外されたりすることもあると思いますが、その時はどうでしたか?
そこまではなかったですが、でもやっぱりちょっと大将の後ろに下がることもありました。
失敗したからといって現場から外してしまうとやはり人は育たないので、失敗してでもいいから育って欲しいと思いますね。
ご自身の経験が背景にあり、ご自身でお店を始めてからも任せることを意識しているのですね。
もちろん任せられる人財じゃないと任せはしませんけども、技術が未熟であってもお客様に喜んでもらおうっていう気持ちのある人財には任せることができます。
そういった人財をもっと増やしていきたいと。
そうですね。でも、うちに入ってからそういう力を身につける者もいますが、もともと持っている者もいるので、そういう者にはどんどんチャレンジさせてあげるようにしています。
社員の方と関わっていく中で、ご自身が学んだことはありますか?
ありますね。他の店舗を覗きにいった時にお客さんから「〇〇さんにこんなことしてもらったよ」などと聞いた時に「あ、それいいな!自分もやろう」とヒントをもらったりすることもあります。
お店を始めた頃と今で社員の方との関わり方に変化はありますか?
接し方は基本的には変わっていないですが、信頼関係は厚くなったと思います。
やはり社員と関わる時は、自分も成長させてもらっているという気持ちでやっています。共に歩む、という気持ちですね。
次にお店のこれからについてお聞きします。10年後のお店のイメージはありますか?
これからの若い人たちに目標や夢を与えられるような、影響力のある人財を多く排出し続けられるお店でいたいですね。
店舗を多くやるとかではなくて、一店舗一店舗しっかり基礎を作って、みんなが向上してお客様に喜んでいただけるようなお店を目指しています。
社員たちには、お寿司を通して関わりながら、一人の人間として仲間と喜びや痛みを分かち合えるリーダになっていってほしいと思います。
そのために、どのように取り組んでいこうと思いますか?
自分が色んなことにチャレンジして、どんどん完成度を高めていく。そんな背中を見せたいですね。
やっぱり迷った時の支えになりたいし、社員の成長の踏み台になりたいと思います。
社員の方の中には今後独立を考えている方もいるかと思います。
社員の独立についてどのようにお考えですか?
この業界に入ってくる人は、みんな独立を考えて入って来ますから、ここで力を蓄えていただいて、将来お店をやっても絶対失敗しないようなお店をできるようにサポートしていきたいし、独立した時は応援したいと思っています。
「棗の魂」を持ってもらいたいという思いはありますか?
それはもう、引き続き、勤めている時も自分でやる時も変わらずやって欲しいですね。勤めている時にいかに経営者の気持ちで仕事をできるかというのが重要なことなので、いつも言っています。
使わない電気を消すだとか、水一滴も無駄にしないとか、経営者になると大事だとわかることなので、意識して欲しいですね。その気持ちはお客様にも伝わるし、従業員の意識の向上にもつながるし、そういう細かいことも言っています。
経営者としての考え方だからこそできるおもてなしがあるということを実感して欲しいですね。
1年目であっても3年目であっても、その意識でいて欲しいと思いますか?
そうですね。やはりそういう思いでやっている人はものすごく成長は早いですよね。意識が違うので。
驚かれるような成長をした社員さんもいましたか?
いましたね。小さいですけどお店を任せてみて、最初はメンタルが弱かったのに、何を言われても動じないくらいどんどん強くなって。
技術もどんどん上げて、お客様に喜んでいただけることを前面に出していけるようになった人もいますね。
最後に、入社を考えている方に一言伝えたいことはありますか?
どうしてもお寿司屋さんは辛いとかきついというイメージをされがちですが、本当にやりがいのある、人間修行にはもってこいの仕事だと、私は今でも思っています。 お客様や仲間を大切にしながら技術を磨いて、今や寿司は世界料理と言っても過言ではないので、寿司を是非極めてグローバルな人間として学んでいただきたいと思っています。
寿司が世界に通用する、その魅力は何だと思いますか?
カウンターという対面での仕事なので、お客様にエンジョイしてもらえるというのが寿司ならではですよね。厨房だと作り手も見えないし、お客様の顔も見れないですし。お寿司はやはり「あなたのために握ります」という気持ちで、お寿司のオートクチュールですよね。「あなたのためにコーディネートする」というのがお寿司なので、それで海外の方も日本のおもてなしを認めてくれて来ているのかなと思います。あとは衛生管理も最先端の国なので、これからもどんどん認められていくと思います。